第6回ダイジェスト(1)

1 プレゼンテーション 
「フランス型自転車共有システムの提案!」
丸山 誠吾・森 広(立命館大学政策科学部2年)

・パリ市で導入されている自転車共有システム「ヴェリブ」について,システムやレンタル方法の説明とフランスと日本の交通事情の違い,京都市に導入する際の課題,解決方法を考えていく。
・ヴェリブとは自転車を意味するヴェロと自由を意味するイブの造語。
・市民の交通手段として導入された。
・背景として渋滞問題が深刻化。パリ市長が2020年までに自動車交通量を40%縮小することを目標に掲げた政策のひとつ。
・2つの大きな政策として,バス,タクシー専用レーンの設置とLRT(路面電車)の敷設がある。
・もうひとつの小さな政策で,パーソナル・トランジットとして自転車政策がある。
・自転車政策で2つの大きな目標として,自転車専用道の総延長500kmを2010年までに達成する。そしてもうひとつはヴェリブを導入する。
・ヴェリブの特徴として,24時間年中無休で利用可能,セルフレンタル,市内に多数あるどのステーションでも返却可能。
・ヴェリブのレンタル方法は,セルフレンタルで路上のステーションにて機械操作のみでレンタル可能。年間パスはもっと手軽で,イコカやスィーカのようにタッチするだけでよい。支払いはカード決済である。
・料金は登録料と利用料で,利用料は30分無料である。1時間越えるごとに上っていくのは,回転率を上げるためである。カード決済にしているのは盗難防止である。既存のサイクリング向けレンタサイクルと住み分けがされている。
・24時間利用可能なので,終電後の利用やストライキ時には通常の3倍の利用がある。
・公共交通の一形態と考えられている。バスで補えない時間,場所がサポートできる。京都でもバスが終わった後,観光シーズンなどに利用できるのではないか。
・特徴のひとつでどのステーションでも返却可能である。人口,商業施設,地形などを総合的に分析してステーションを配置。250m間隔で総数1451箇所。自転車の総数は,パリ市人口の1%で20600台。返却が多いところ少ないところを確認して自転車を再配置している。
・運営に関しては,広告代理店のJCドゥコー社が行っている。市内の屋外広告物の掲載料を得る代わりに,維持管理を行っている。修理が重要で,いたずらや落書きがあるので,スタッフが巡回して修理を行っている。パリ市の負担はなく,ヴェリブの利用料は修理費など維持管理に利用されている。
・パリ市での効果として,パリ市人口の10%,22万人が年間会員となっている。自転車利用の促進につながった。個人所有の自転車も増えている。店舗や住宅街でも公共交通として認識されているので,アピールすることとなり,商店街の活性化にもつながった。公共交通への乗換えが進み,自動車の台数の減少,渋滞が緩和されることになった。
・日仏の違いとして,京都では既に市民の交通手段として定着しているが,パリでは新しい取組という意識である。台数も京都では個人所有が多くあるが,パリでは普及の途上である。京都では歩道や車道を自転車が走っているが,パリでは車両として意識されており,歩道を走ることは禁止されている。一方通行道路もある。
・パリではベロタクや自転車を利用した宅配など様々に自転車が利用されている。自転車の専用レーンや専用信号もある。京都では保有台数も多くより普及しているにもかかわらず,交通手段としてはフランスのほうが有効活用されている。京都も走行環境をしっかりして,交通手段としてしっかりとした地位にするべきではないか。
・ヴェリブを京都市に導入するに当たっての課題,解決策について,ヴェリブ導入によって期待されることは,公共交通へのシフトと放置自転車削減である。公共交通へのシフトについては,ヴェリブが成功すれば公共交通のつなぎ目として利用することになり,公共交通の利用が便利になる。そうすれば脱クルマ社会の構築が期待できる。放置自転車の削減については,個人の保有台数が多いため,単純に考えると全体の自転車の数が増加して,ほんとに放置自転車の削減につながるかということが考えられる。
京都市に導入する際の課題点として,駐輪問題に関して,パリ市では個人の自転車保有台数が少なく,放置自転車も少ないため,既存の自転車に関する課題は少ないが,京都市では個人の保有台数が多く,放置自転車も多いため,既存の自転車とヴェリブの共存は大きな課題となる。
・2つ目の課題として,ステーション設置場所の不足である。京都市は細い道路が多いのでステーションの設置が難しい。
・以上の課題を踏まえて,ヴェリブ導入に向けて何をすればよいか。ヴェリブ導入と同時に違法駐輪問題を考えていく必要がある。
・ヴェリブ導入による違法駐輪の解消法として,違法駐輪が集中しているところにステーションを設置する。違法駐輪が削減されると同時に規則正しく自転車が並べられ,景観もよくなる。しかし,これだけでは違法駐輪は減少しない。放置自転車がある場所は,自転車利用者の目的地であり,その場所のみ改善することになる。出発地の家の近くにもヴェリブのステーションが必要。探さないでも見つかるように大々的にステーションを設置し,法的規制を強化すれば,違法駐輪で罰を受けるよりヴェリブを利用しようというひとが増える
京都市では細い路地が多く,ステーションの設置をどうするか。ステーションの設置方法として,
1 空き家をステーション化する。道路上に場所をとらない。
2 店舗の駐車場の一部をステーション化する。ヴェリブのステーションの広告
によって宣伝効果があり,売上が伸びる。
3 コンビニの駐車場をステーションとして利用する。24時間営業のところで
は明るくて安全でもある。
4 コインパークのステーション化。店舗,事業所,住宅などがコインパークに転換されている。コインパークの土地は零細であるため,逆に店舗などには転換されていない。コインパークの有効な土地利用対策が必要である。コインパークの一部をヴェリブのステーションにすれば有効な土地利用が図れる。
・ヴェリブ導入で期待されること,公共交通へのシフト,放置自転車の削減,商業の発展など。
・自動車が多い場所では歩行者が少なく,歩行者が多い場所では自動車が少ない。
ミュンヘン市の事例,1963年以降都市開発でモール化が進んだ。モール化によって歩行者が増加し快適に歩行できるようになり,自動車が減少した。店舗の売上も増加している。
・自転車と歩行者の数でも,自転車が多い場所では歩行者が減少する傾向がある。自転車専用道を整備すればこの差は縮まる。パリ市では自転車専用レーンがあり,歩行者が安全に歩行できる。
京都市での烏丸通の事例では,道路に2輪の走行スペースの表示があり整備されているが,車が駐車していることもあり,自転車が安全,快適に走行できていない。堀川通では,歩道に赤く塗って色分けされているが,これに従って走行している人はほとんどなく無意味である。京都市では自転車専用レーンの整備はまだまだ進んでいない。
・自転車専用レーンの整備は車道の一部の削減となり,コインパークや駐車場のステーション化は駐車スペースの削減となるので,自動車の減少が期待でき,公共交通の利用,自転車,歩行者が増加する効果が期待できる。商業の発展にもつながる。
・自転車専用レーンなど環境整備をして,ヴェリブを導入することで,自動車の削減になり,商業にもよい影響がある。
・パリ市では自動車からヴェリブを含めた公共交通へのシフトが図られ,効果も挙げている。京都市でも自転車からヴェリブへのシフトと同時に,個人の自転車への対応もしっかり行い,総合的な交通政策の中でヴェリブを導入すれば成功するのではないか。
 
2 コアメンバーからの意見・提案[その1]
○門川市長がパリでヴェリブを体験してきた。パリと京都の都市構造や自転車の置かれた状況も違いがあるので,ストレートに導入できるものではないという感想を言っておられた。
○日本で自転車を共有することが根付くか,根付かせてよいのかどうか。
 道具を自分で持って,愛着を持って使うことと,誰のものでもないものを道具として使うことは文化的に違う。京都の伝統文化やものに対する人の接し方などから,京都にふさわしいものであるか。自転車の共有がいいものかどうか。
○都市構造について,パリは都心部・旧市街で食住混在が進んでいる。どこででも自転車の集中や交通が均等に発生する。京都では例えば,衣笠で毎日どのくらい交通が発生するか。移動の距離はどうか,ヴェリブで対応できるのか,運用上の問題もある。
○自転車で移動する距離を短くする,時間的に短くする,トリップ数を減らすなど街の構造を変える長期的なアプローチもある。京都の街の形をどうしていくのか。
○コミュニティサイクルの動きとして,自転車にマイクロコンピュータを入れて,どこからどこまで動いたか把握できる。パリでは地元利用40%,観光利用35%で地元,観光ともに広く使われている。
○世界中でコミュニティサイクルは行われているが,成功している事例が全くないなか,ヴェリブやスマートバイクが成功しているのは,クレジット決済としていることである。失敗している例は,貸し出しと返却が限られた場所であると,適正なところに片付けないとか,盗む人がいるという弱点がある。ヴェリブやスマートバイクはクレジット決済なので,自転車をなくせば請求がくる仕組みになっている。京都に導入されれば,通勤,通学に大いに使われるだろう。
○パリでのコミュニティサイクルの考えは1905年に始まっている。当時パリの自転車道路は60km程度であった。フランスはストライキの多い国柄で,ストライキのときに,公共交通利用者が自動車を利用し,そのたびに大渋滞が引き起こされた。コミュニティサイクルは環境対策というより自動車対策として始まった。見習うべき点,京都に導入されてもよいのではという点もある。
○走行環境,インフラ整備について,自転車専用道が95年には60km,今や400km,2010年には500kmに延ばそうとしている。安全快適な走行環境を作ろうとしている。日本でも導入するとなるとその辺の目標が重要である。
○個人の自転車所有が根付いているところにヴェリブを導入するとなると,個人の自転車の対応をしっかりと行わなければならないというのは,具体的にどうするかが課題となる。自動車からヴェリブを含めての公共交通へのシフトについては,総論として自動車の交通量をいかに少なくするか,道路空間の再配分を行っていくべきか。パリでのきっかけが公共交通のストライキということであるが,日本ではストライキが少ない。
○自動車の交通量を抑制するというコンセンサスがないと進められないかもしれない。交通全体の問題である。場所の問題としては,提案以外にも公共駐輪場や民間駐輪場などもある。
京都市の駐輪場を拠点にということであるが,京都市の駐輪場は66箇所,民間も含めると91箇所,そのうち45箇所が有人管理であり,活用していくことができないか。国からの補助金で建設した駐輪場は,駐輪場以外に使うのは難しい。
○国内の他都市の事例は調査しているが,岐阜では収入300万円に対し支出が900万円,平塚では収入900万円に対し支出1500万円で収支が逆転しており,一番の課題である。自転車を購入するにも安物ではなく,6万円くらいのものでないとすぐに潰れてしまう。
○MCドゥコーはバス停の看板で収益を上げているが,特異な契約方式ができるのかどうか検討しなければならない。
○観光地では,どのような駐輪場があるか,放置自転車が出てくると新たな課題となる。京都らしいレンタサイクルの運営方針を検討する必要がある。
京都市の自転車歩行者道は500km,段差等で区分された自転車道は41kmである。
○パリと日本の共通点は観光都市であること。自治体がコミュニティサイクルをするなら赤字覚悟で行うことになる。京都市では観光者向けにして,採算を挙げるほうがよい。セグメントを考えるなら,地域で実験的にコミュニティサイクルをやってみるとよい。
○だれがどこで借りてどこで返したかは,わかるようにする必要がある。そうでなければ,今までのコミュニティサイクルと同じことになってしまう。どういう形でやるか。
○京都とパリの自転車の位置付けの違いを踏まえて,ヴェリブを導入すべきかどうか進めていくべきである。
○まず駐輪場不足が決定的であるから整備しなければならない。自転車を置く場所としてはヴェリブも同じ場所であるから,ヴェリブの展開も念頭において駐輪場を整備すればよいが,駐輪場の整備が進んでから,試験的にヴェリブを導入してみて,使ってもらえるか検証する,というのが現実的である。
○パリ市では,絶対に使ってもらえるという確信と責任を広告代理店が負って行ったが,京都でそれだけのリスク,責任を負う企業はない。
○ヴェリブ導入で放置自転車を減らすことと,京都市内全体での自転車数を減らすことが出来ればよい。阪急西院駅に自転車共有システムを行っているところがあり,立命館大生の中にも利用者がいる。京都市内の自転車の車両数をどうやって減らしていくか考えていくうえで,ヴェリブの共有システムは大事である。
○人の移動が多い都心部においては,人々が自転車を共有する,レンタサイクルが便利であるという意識を持つところまでたどり着くのが課題であるか。
○パリの例がお手本であるとは思わないが,京都でも何かやっていかなければならない。実験的に行政なり民間で小さなところから徐々にやっていく必要があるのでは。